バフェットの保有銘柄を真似したら勝てるのか — SEC生データで13年検証した結果
「バフェットの真似をすればいい」— よく聞く話です。実際、米国の大口投資家は四半期ごとに全保有銘柄をSECに開示する義務があり(13F報告書)、誰でも無料で読めます。ならば機械的に真似すれば勝てるのでは? 当ラボはこれを推測ではなく実データで検証しました。
検証の設計(結果を見る前に固定)
パラメータを後から都合よく変えないため、条件を先に宣言してから実装しました。
- データ: SEC EDGARの13F-HR報告書の原本(XML)を直接取得。418件の提出書類、2013年8月〜2026年8月
- 追随対象: バークシャー・ハサウェイ、バウポスト、フェアホルム、マーケル、トゥイーディー・ブラウン、ダッジ&コックス、デイビス、ファースト・イーグルの8社。過去の成績ではなく運用スタイル(大型・低回転・買い持ち中心)で選定
- 最重要のタイミング規則: 保有情報は「四半期末」ではなく実際の提出日に初めて公開されます。よくある検証は「四半期末の保有を四半期末に買った」ことにしてしまい、これは未来情報の混入(ルックアヘッド)です。当ラボは提出日の翌営業日の寄付でのみ売買します
- 組成: 各社の上位10銘柄を報告金額で集計し、上位15銘柄を等ウェイト保有。次の提出まで持ち続ける
- コスト: 手数料・スリッページ・単元株制約すべて込み、円建て
技術的な難所は、13F報告書にティッカーが書かれていないことでした。「BANK AMER CORP」「OCCIDENTAL PETE CORP」のような略記社名しかないため、SECの公式企業リストと照合する変換器を書き、既知の正解27パターンでテストしました(照合率94.7%)。
結果:指数に負けました
| 戦略 | 年率 | シャープレシオ | 最大ドローダウン |
|---|---|---|---|
| 13Fクローン(著名投資家の真似) | +13.7% | 0.76 | -39.2% |
| S&P500(SPY)を買って持つだけ | +17.6% | 0.94 | -33.7% |
同じ期間・同じコスト条件で、単にS&P500を買って寝ていた方が、年率で3.9ポイント上回り、下落も浅く済みました。 訓練期間(2019年まで)と検証期間(2020年以降)で分けても結論は変わりません。
理由は難しくありません。45日の開示遅延の間に価格は動いてしまいますし、著名投資家の保有銘柄は基本的に大型株なので、結局「大型株の一部を持つ」だけになります。それなら指数全体を持つ方が分散が効きます。
念のため疑った点:都合の悪い銘柄を除外していないか
この検証には落とし穴があります。倒産・買収で消えた銘柄(例:シアーズ)は現在のティッカー一覧に存在しないため、変換できず自動的に除外されます。負けた銘柄だけが消えるなら、結果は不当に良く見えます。
そこで除外された銘柄の金額を記録し、「除外分は現金として遊ばせる」保守的な処理で再計算しました。結果は年率+0.02ポイントの差、つまりほぼ影響なし。除外されるのは小口の保有が多く、上位15銘柄に入らないためでした。疑ってから否定できたので、この点はクリアです。
途中で見つけた自分のバグの話(ここが本題)
最初にこの戦略をポートフォリオに追加したとき、成績は改善して見えました。年率が上がり、ドローダウンも浅くなった。採用しかけました。
しかし取引回数を見て違和感がありました。13F銘柄の売買が1件も発生していなかったのです。
原因は「無取引帯域」という仕組みでした。目標比率と現在の比率の差が2%未満なら、無駄な売買を避けるため注文を出さない設定にしていました。ところが13F戦略は15銘柄に1銘柄あたり1.0%ずつ配分するため、すべての注文が「ノイズ」として却下されていたのです。
つまり最初に見えた「改善」は、13F戦略の効果ではなく、同時に変更していた他の配分とレバレッジの効果でした。バグを修正して正しく売買させると、結果はこうなりました。
| 13Fなし | 13Fあり(バグ修正後) | |
|---|---|---|
| 年率 | +35.7% | +37.8% |
| シャープレシオ | 1.36 | 1.34 |
| 最大ドローダウン | -28.8% | -32.8% |
年率は上がりますが、それは単にリスクを増やしただけで、リスク調整後の効率は悪化しています。事前に決めていた採用条件(訓練期間でシャープレシオが改善すること)を満たさないため、棄却しました。
この検証から言えること
- 著名投資家の公開情報を真似する戦略は、少なくとも機械的な実装では指数に勝てませんでした。「有名な人の真似」は直感的に魅力的ですが、直感と検証結果は違いました
- 「改善した」と見えたときこそ、その改善が本当に発生しているかを疑うべきです。当ラボの場合、取引回数(914件 vs 1537件)がバグの証拠でした
- 事前に採用条件を決めておくと、こうした場面で自分に有利な判断をせずに済みます。この検証で16個目の改善候補のうち12個目の棄却となりました
棄却したコードは削除せず残してあります。将来データが増えたときに再検証するためです。当ラボの現行システムは引き続き4戦略構成のまま、毎日の実績を検証ジャーナルで公開しています。
※本記事は検証記録であり投資助言ではありません。特定の銘柄・手法を推奨するものではなく、掲載数値は将来の成果を保証しません。